「英語ができて優秀な営業が欲しい」でも、なかなか見つからない…
「日本で、英語が話せて、ITソリューションの営業もできる人が欲しいんだけど、全然いないんだよね…」
外資系IT企業の採用担当者や営業マネージャーから、こんな声をよく耳にします。
確かに、理想は「英語で本国とコミュニケーションが取れて、日本市場の顧客にも強い」そんな営業人材。しかし、実際にはその“理想の人材”に出会えるケースはほんの一握り。なぜなら、日本にはそもそも「英語が話せて即戦力になる営業職」が極めて少ないのです。
私は外資系IT企業専門の人材紹介に長年携わってきましたが、日本市場特有の難しさと、英語人材採用における落とし穴を肌で感じてきました。
この記事では、
- 日本で英語が話せる営業職が見つからない理由
- 採用におけるよくある失敗パターン
- 成功する企業が実践する現実的な採用戦略
について、実体験をもとに解説していきます。
日本で「英語が話せる営業職」が見つからない理由
英語を「話せる」日本人は、実は2割以下
まず前提として、日本人の中で「実際に英語を話せる」人材は非常に限られています。
外資系IT企業であっても、私の肌感では8割以上の営業職が英語での口頭コミュニケーションに苦手意識を持っています。
「えっ、でも読み書きはできるでしょ?」
その通りです。近年はAI翻訳ツールの発達により、読み書きの英語力をカバーする環境は整ってきました。メールのやり取りや資料の読み込みといったシーンでは、英語対応できる人も確実に増えています。
ただし、口頭でのリアルタイムなやり取り、つまり英語での会議や顧客とのディスカッションになると話は別。ネイティブとのテンポの速いやり取りに自信を持てる人材は、体感で全体の2割ほどです。
英語力だけで候補者を絞ると、80%を見落とす
この「2割」という数字を覚えておいてください。
仮に、外資系IT領域で100,000人の営業職がいたとして、その中で英語を“話せる”人材は約20,000人。さらに、あなたの会社のソリューションに親和性がある分野(たとえばセキュリティ、クラウド、SaaSなど)に絞ると、おそらく該当者はさらに1/10以下、つまり100人未満に絞られる可能性もあります。
この状況で、さらに「年齢は30代」「転職回数は少なめ」「年収は抑えめ」といった条件を加えていくと…採用できる人材はほとんど残らないのが現実です。
英語力の高さだけで候補者を絞ってしまうと、優秀な営業職の大半を見落とすリスクがある。
これが、日本における人材採用で最も多い“見えにくい落とし穴”なのです。
採用における失敗パターンとは?
「英語ができる」だけで採用してしまう落とし穴
多くの企業が、英語力を“採用の絶対条件”と捉えがちです。
ですが、「英語ができるから即戦力」とは限りません。
実際に見られるのが、英語力はあるものの、成果を出せていない候補者です。
このタイプの方々は、面接での英語対応は非常にスムーズ。語学力に長けているため、面接官からの印象も良くなりがちです。
しかし、蓋を開けてみると次のようなケースが散見されます:
- 転職回数が多く、定着率が低い
- ソリューションへの理解が浅く、顧客と深く関係構築ができない
- 実績や売上が乏しく、前職でも活躍できていなかった
つまり、「英語ができる=優秀な営業」ではないのです。
「立ち上げ期企業」を狙う“英語堪能だが実績に乏しい人材”の存在
特に立ち上げ期の外資系企業は、「英語ができる人をまず採る」という動きが多く、こうした候補者にとっては“狙いやすい”市場でもあります。
英語が堪能であれば、最初の関門は突破できます。ですがその後、商談や営業プロセスの設計、パートナー連携など、日本市場ならではの業務でつまずく人も少なくありません。
そうした人材が短期離職を繰り返し、再び次の立ち上げ期企業に応募するという“負のループ”も存在します。
これは決して例外的なケースではなく、実際の採用現場で頻発している問題です。
成功企業が実践する「現実的な採用戦略」
英語の口頭力は「求めすぎない」のがポイント
では、実際に採用がうまくいっている企業は、どのような方針で人材を選んでいるのでしょうか?
ひとつの共通点は、「英語の口頭力だけを重視しすぎていない」ことです。
読み書きは問題なくできる。ミーティングは通訳や補助資料を使えば対応可能。
そういった状況を許容し、本当に必要なスキル(営業力、関係構築力、ソリューション理解)を重視して採用を進めています。
たとえば、以下のような工夫を取り入れている企業があります:
- 英語が堪能なマネージャーがいて、通訳や補助を行う体制を整備
- 海外本社とのやり取りは一部代行し、営業担当は顧客対応に集中
- 「話す英語」は最低限でよしとし、成果重視で評価する
こうしたアプローチを取ることで、本当に価値を発揮できる人材の採用に成功している企業が増えています。
日本市場の“リアル”に即した人材像を見極める
日本では、既存顧客との関係構築や、現地特有の商習慣への理解が非常に重要です。
その意味で、「英語は話せるけど、日本の営業に不慣れ」という人材よりも、日本のビジネス文化に深く根付いた営業職の方が、長期的には成果を上げやすい傾向にあります。
本国の意向やカルチャーも理解しつつ、日本市場で“売れる”営業を育てていく。
それが、現実的かつ成功確率の高い採用戦略です。
採用基準の設計と柔軟な運用がカギ
「厳しめ→徐々に緩和」が基本。ただし運用に注意
採用活動を始めるにあたっては、最初に厳しめの要件定義を行うのが基本です。
明確なターゲット像を持つことで、選考の軸がブレずに済みます。
ただし、多くの企業がこの後に陥りがちなのが「条件緩和による評価の混乱」です。
つまり、採用開始当初は「年収〇万円以上」「英語スキル必須」「SaaS経験あり」といった厳しい条件でスタートし、数ヶ月後に候補者が集まらず、基準を緩和することになります。
ところが、緩和後に現れた候補者に対しても、最初の厳しい基準でジャッジしてしまうのです。
結果として、「やっぱり違うな」と候補者を見送り続け、時間とリソースだけが消耗していきます。
優秀な人材は“今”しか採用できないかもしれない
さらに注意したいのが、見送った候補者が後から振り向いてくれるとは限らないという点です。
日本市場では、優秀な人材ほど他社からのオファーも多く、意思決定のスピードが重要になります。
「やっぱりあの人を採ればよかった」と思っても、すでに別の企業に決まっていたり、見送りに対してネガティブな印象を持たれてしまっていたりするケースも珍しくありません。
採用基準はもちろん大切ですが、「80点以上なら採用」といった合格ラインの柔軟な運用も必要です。
まとめ:完璧を求めず、“現実解”から逆算せよ
日本で「英語が話せて優秀な営業人材」を採用するのは、簡単なことではありません。
英語力だけにこだわると、選べる人材の母数が極端に減り、採用のハードルが一気に上がってしまいます。
一方で、営業力や市場理解といった“成果につながるスキル”に注目し、英語力については補完体制を整えるというアプローチを取れば、採用の可能性は一気に広がります。
採用で失敗しないためには:
- 英語力だけに偏らず、成果を出せる営業像を明確にする
- 採用基準は明確に定めつつ、現実に応じて運用を調整する
- 採用判断は迅速に。魅力的な候補者はすぐに動く
理想はもちろん大切ですが、現実解から逆算した採用戦略こそが、外資系企業の日本市場での成長を加速させる鍵です。